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仕事ものがたり

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盟友を亡くしたこと。

10年ほど前のこと。藤井はある人を介して、K氏を紹介された。K氏は、藤井よりも8歳年下の、ある一部上場企業の創業者一家に生を受けた御曹司である。ところが御曹司という言葉からは想像ができないほど、人懐こくて、相手を選ばない親和性の高さを持ち、親から受け継いだ会社の仕事で海外を飛び回っていた。「はじめて会った時、こいつは天才だと思った」と振り返る。その営業センスを高く評価していた。ところが3年前に彼はいきなり会社を辞めてしまう。祖父が創業し、父と伯父が大きくした会社を受け継がない選択をし、なにか新しい人生を探すと言いながら、世界を、日本中を遊び歩くように旅をしていた。藤井はK氏がいずれ新しいビジネスを起こすだろうと期待しつつ、時に叱咤し、説教もした。

ところが、その期待は結実することなく、3月のはじめに、K氏は50歳の若さで急逝した。悲しみに打ちひしがれる藤井は、葬儀で奥様からこう告げられる。「自分を理解して叱ってくれるのは藤井さんだといつも言っていました」と。男泣きに泣いた後、以来、藤井は桜とともに散ってしまったK氏のことを考えている。K氏が生きていたら、しているであろうことを。そして彼の死は、自分になにを伝えようとしているのか、を。