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母とのうなぎランチは、思い出を巡る味

藤井は月に一度、母と一緒にうなぎでランチを食べることにしている。なぜ毎月うなぎなのか。特にものすごい好物というわけではないが、藤井と母の故郷の風景がよみがえる食事なのだという。山口県岩国市出身の藤井親子にとって、子どもの頃から山里の自然が遊び場だった。いわゆる戦中派といわれる母の世代は、野山を駆け回ったり川を泳いだりすることが当たり前の幼少期を過ごしている。藤井の母は、幼い時に弟と一緒に川遊びをしながらうなぎをつかまえた記憶があるという。それを家に持ち帰って、さばいて食したのだとか。今の時代では考えられないほどの、のどかで豊かなエピソードだ。「鮎は自分で獲ってくるものだと思って育ってきたので、大人になって東京で鮎の塩焼きが結構な金額で供されているのを見た時は、心底驚いた」さらに「鮎は川で獲るもの、干し柿は盗むもの。子どものいたずらが笑って許された、寛容と豊かさの時代だった」のだそうだ。

世知辛い現代から考えれば、遠い昔の話のようだが、藤井と母にとっては、ついこの前の出来事のように、山里の風景を思い出すのである。藤井が、うなぎを母と一緒に食べるのは、そんなうなぎにまつわる思い出があるからだった。「実際に食事をしている時は、思い出話をするわけではなく、なぜか母に説教されるのだけれどね」と、笑う。