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富山の町で出会った、踊るおじいちゃん

前回のコラムで紹介した名古屋市の「やっとかめ文化祭」は23日から始まり、9日目を迎えている。コロナ感染予防に配慮しながらも、多くの市民が今まで知らなかった名古屋の奥深い文化に触れ、疲弊していた心もすこしは和らいでいるのではないかと思う。藤井は、「やっとかめ文化祭」のスポンサードを決めた時に、あるおじいちゃんのことを思い出したという。

それは富山の城端という町を訪れた時のこと。その町の女性はみな三味線が弾けると言われるほど、地域に芸能が根付いたところである。ちょうど夏祭りが行われていて、町の広場では盆踊りのようなにぎわいがあったのだそうだ。ヒット曲が流され、人々は楽しげに語り歌い、踊っていた、その時。藤井の目に一人のおじいちゃんの姿が飛び込んできた。そのおじいちゃんは、愛燦燦などの歌謡曲では見向きもせずに座っていたが、城端に伝わる民謡の「こきりこ節」が流された瞬間に、いきなり立ち上がって意気揚々と踊り出したのである。民謡というのは、文字通り、民のための唄である。優雅な女踊りと端正な男踊りで知られるこきりこ節は、地元民によって伝承されてきた。西条八十が採譜のために城端を訪れたことも有名で、おそらく地元の人の心には永遠に生き続ける地域芸能であり誇りなのだろう。おじいちゃんの姿を見て、藤井は地域に根付いた芸能や文化の尊さと、それを愛でる人々の邪念のない心持ちに、深く感銘を受けたという。

やっとかめ文化祭
http://yattokame.jp
2021年10月23日(土)〜11月14日(日)