シークエンス

シー・クエンス
仕事ものがたり

写真

数字だけではなく、心が満たされることを考える

当時の業界最大手の証券会社と、その後の転職先である損害保険会社で、いずれもトップセールスとして大きな数字をたたきだしていた藤井。年収もサラリーマンとしては破格の数字であり、常に売り上げを上げることを第一目標にして何十年かの社会人生活を送った。人から見れば大手企業に勤務する、人もうらやむ生活である、はずだった。しかしながら、藤井の心は満たされることなく、いつも孤独と戦っていた。数字が上がることは会社の利益につながるから喜ぶべきことである。なのに、空虚な気持ちが常に胸を覆い、同僚たちの中にはメンタルをやられてしまう者もいた。そして証券会社は倒産し、損害保険会社も同様に失墜してしまう。それぞれの業界で天国と地獄を見た藤井は、戦後経済からバブル経済までの約50年で日本が失ってしまったものが何なのか、身をもって体験したのである。日本が失ってしまったもの、それは豊かな心である。経済的な豊かさを追い求めた結果、心の豊かさをどこかに置き去りにしてきてしまった。藤井自身も自分の心にぽっかりと空いた穴に気づきながら、それでも経済をまわしていかなければいけない立場として数字と戦っていた。そんな時に偶然出会ったのが、ゆみちゃんの短冊である。おそらくこの先も出会うことのない少女(現在は20代か30代の大人になっているはず)に思いを馳せ、いずれどこかの家族がここで幸せを掴む日を想像しながら、藤井は今日も土地へと向かうのである。