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『市民ケーン』から思うこと

『市民ケーン』という古いアメリカ映画をご存知だろうか。1941年の作品で、オーソン・ウェルズの監督デビュー作であり、ウェルズ自身が主役を務めているモノクロ映画だ。藤井がまだ20代のころ、テレビ放映を偶然観たのだが、藤井にとって心に残る映画のひとつだという。

山奥の田舎町に育ったケーンは、大人になりニューヨークにて新聞事業で成功をおさめ、たちまち億万長者となった。新聞王として、数々のメディアを有し、大統領の姪と結婚をして名声を高め、誰もが憧れるアメリカンドリームを体現した人物だった。ところが最期は孤独な死。物語は、ケーンが「バラのつぼみ」という言葉を言い残して亡くなったところから始まる。各メディアは、その不思議な言葉が何を意味するのかを突き止めようと必死にリサーチするが、誰もその謎を解くことはできないままエンディングを迎える。ここからはネタバレになるが、「バラのつぼみ」というのはケーンが心の中にずっとしまいこんでいた大切な思い出を表す言葉だった。どれだけ裕福になろうとも、ケーンは最期まで決して幸福とは言えなかったことを暗示しているラストとなっている。利益第一優先は本当の幸福にはつながらない、土地に敬意をはらって文化に軸をおいて仕事を進めていきたいと考える、藤井の思いと重なるのである。